DXという言葉を、真に理解できている人は案外少ないのではないでしょうか。コロナの影響で、会議の形式をリモート会議に切り替える取り組みや、業務効率化の観点から業務システムを入れ替えるといったものを、まさかDXと呼んではいないだろうか。
DXのDがデジタルの頭文字であることから、デジタル化やIT化をそれと勘違いしてしまうのは仕方ないようにも感じます。
筆者は、1985年に東京大学卒業後に通商産業省に入省。産業革新機構執行役員、東京電力HD取締役、経済産業省商務情報政策局長などを歴任しており、時代の数歩先を行くビジョナリーとして、日本の経済・産業システムの第一線で活躍してきた人物であり、本書ではDXの真髄を見事に解き明かしています。
正直、かなりレベルの高い内容となっているので、DXを理解しなくてはいけない人、即ち、IT関連企業の方や、その企業を目指している方、今後、経営の方針を変える必要に迫られるであろう経営者や経営コンサルタントの方にとってはいい教材となりますが、そうでない人には、ハードルが高過ぎてお勧めはできません。
DXとは何か。この問いに対するストレートな“答え“を探しに行きましょう。
DXは会社の形そのものを作り変える取り組み
DXとは、デジタル・トランスフォーメーションの略語です。
私のように中途半端に英語を勉強してきた人は、このカタカナを見て、“デジタルに変化する”と理解してしまうことがあるかと思います。
トランスフォーメーションという英語は、形が跡形もなくすっかり変わる、ということであり、つまりは“決定的な変化を起こす”ということを意味します。
単純に既存の業務がIT化・デジタル化されるということを意味しない点に注意しましょう。
しかし、世の中でDXと語られる話のほとんどは、
「デジタル技術を使って業務改善をやります」
という、ちょっと前にIT化の脈絡で語られていたことの言い換えに過ぎないのが実態であると、筆者は指摘しています。
ちょっとましな話でもAIを使って新製品開発をするとか、データ利活用の新規事業探索をする程度。いわゆるコンサルティング稼業がDXをネタに飯を食うために、ある意味、簡単に手をつけられるDXという名のIT化推進プロジェクト売り込みまくっているのが日本の現状です。
そのため、世の中には、“なんちゃってDX”や、”DXごっこプロジェクト”があふれてしまっているというのが、筆者の意見です。
少々話がズレますが、ITシステムをめぐるベンダーと、顧客との間にある日本特有の企業間関係を改革すべきだという筆者の主張があります。
日本の顧客は何事も自社特有の業務の進め方に適合するようにシステムをカスタマイズして利用することを好み、ベンダーはベンダーでそうした特殊なシステムを受注しておいた方が、顧客に逃げられず好都合なので、長年にわたりその状態が続いています。
長年にわたり特殊加工と建て増しを繰り返したシステムは、よくある温泉旅館のように複雑回帰になり、ベンダーにも顧客にもどこがどうなっているのか分からなくなってしまっていることも少なくありません。
これが顧客である日本企業一般と、ベンダー企業双方の競争力の低下と、人材の無駄遣いを招いているという議論もあります。
最近よくニュースになっている○○銀行のシステムの中身についても、私はよく知りませんが、このような複雑な状態になってしまっているのでしょうかね。
DXの思考プロセスを理解する
DXとは、会社の形そのものを作り変える必要がることはご理解いただけたと思います。
ここで言う、会社の形を変えるとは、昭和以来のカイシャ(ここでは古い大企業の体質をイメージ頂ければと。詳細は本書をご参照ください。)のロジックを乗り越える改革ができて初めて、DXが達成できる、と著者は主張しています。
ここでまた必要な議論として、日本の企業は抽象化してから具体化する、すなわち上がってから下がると言う発想があまり得意ではないという話があります。
私が金融機関に勤めていた時にも、取引先の社長からよく聞いていた話の中で、“引き合い”という言葉があります。
その社長曰く、「自分の所の製品は技術的に優れているので、聞いたこともない外国企業からも“引き合い“があった。」という話です。これは本当によく聞きます。
そして、その聞いたこともない外国企業は、なぜ、どうして、何のために、わが社の製品注目したのか。とはならず、「次も引き合いが来るようにさらに技術を磨き込もう。」となることが多いことに、著者は問題意識を感じています。
海外の企業は、それこそ、GAFAを筆頭とした世界のプラットフォーマーは、その思考プロセスが異なります。この認められた技術を、抽象化し、他にも転用できないかと考えます。既存のあるものをひたすら極めること、「改良・改善」で高度経済成長を成し遂げた日本ならではのこの発想を、今こそ変革させる必要があります。
抽象化の考え方を備えた上で、次に経営者が取り組むべきことは、“本屋の本棚を見てそこにない本を探す”ということです。
現在、ありとあらゆるテクノロジーが利用可能なネット社会となっており、経営者は、そのテクノロジーを見渡して、それを使って自社のビジネスをどう組み立てるかを考えることが必要となります。
そして、そこにないものについては、自ら作り、SaaSなどの形で世界に提供していくという動きが大切になります。
自社のシステム構成や業務フローの最適化から発想すると、自社の置かれた競争環境=“白地図”を見失うことになります。また本棚を見渡すのは、本屋にない本を探すことが、そのビジネスが価値とソリューションを生むための一定であり、その企業がプラットフォームになるきっかけでもあります。そして、そうすることが、業種と言う考え方から卒業することにもつながると筆者は考えます。
ややこしいことを目の前にしたときに、私たちはまずどうすべきなのか。その答えは、課題から考えるということです。
アインシュタインが言ったとされる言葉があります。地球滅亡までにあと1時間しか残されておらず、あなたが地球防衛軍の責任者だったらどうするのか、と言う問いに対する答えです。アインシュタインの答えは、「自分なら55分間はその課題がどういうものなのかについて考え、残りの5分で解決策を考える」と言うものです。課題から考えるということは、まさに抽象化そのものです。
最後に
この本は、内容が難しい上に、濃度も濃い。
とてもブログの形式で、まとめるにもまとめ切れていないのが正直なところでございます。
この文章を読んで、少しでも興味があれば是非、実際に手に取って読んでいただきたいです。
本書の終りの方に冨山さんが解説文を書いていて、とても分かり易かったのが印象的でした。読み始めて、ちょっと難しいなと感じたら、解説文を読んでからまた読み進めるのも良いかもしれません。
世代のリーダーを選抜する試験として以下の3つのテストが記載されていたので、皆様もぜひ考えてみてください。
- 課題から考える 解決策にとらわれない (考え方ができるか?)
- 抽象化する 具体にとらわれない (考え方ができるか?)
- パターンを探す ルールや分野にとらわれない (考え方ができるか?)