なぜ、圧倒的な顧客基盤と経営資源を有するナンバーワン企業の多くが、時代の変化、とりわけ破壊的イノベーションの波に飲み込まれ、甚だしい衰退に追い込まれるのでしょうか。
この問いに対して、まさか一昔前の経営学を用いて、説明してしまってはいないでしょうか。
恥ずかしながら、私は、この本を読むまで、スムーズに説明ができずにいました。。。
本書は、成熟した大企業、中小企業がイノベーション起こす上で、経営学において最も重要と言える“両利きの経営理論”を、同分野を切り開いてきた世界的な経営学者であるスタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授とハーバード大学のマイケル・タッシュマン教授が圧倒的に豊富な事例をもとに解説していく本であり、この問いにストレートに解答してくれています。
日本の経営者、経営コンサルタント、これから経営をする方は、この本を読まずに経営に携わることが、どれ程のリスクを背負い込むことになるか、覚悟が必要になるかもしれません。
両利きの経営を正しく理解し、新たなビジネスチャンスを掴んでください!
サクセストラップを理解する
成功している組織は、長く存続していく中で、規範を作り、成功に関わる行動について期待値を設定していきます。
ある行動をとれば、ステータスや認知の面で公式にも非公式にも報いられ、別の行動とれば周囲から眉をひそめられ、罰せられることを、人々は学んでいくことになります。
その結果、規範を守る人が出世し、新卒採用では企業の期待値に合った能力を持っている人が選定される組織の構造ができあがります。
この社会的なコントロールシステムや文化的な調整は、戦略実行に役立ち、企業の成功に貢献します。
そのことが、結果的には文化的な惰性につながり、変化することを一層難しくさせてしまいます。
成功に向けた構造、システム、プロセス、指標を開発しようと懸命に頑張ってきた人たちは、既存事業が低収益で不確実な機会があることに気付いていたとしても、これまでに築き上げてきたものを変えるという選択ができず、変化することを知らず知らずのうちに拒むようになります。
そう、これこそが“サクセストラップ”と呼ばれるジレンマです。
どこの企業とは言いませんが、日本の大企業にも多く生じているのではないでしょうか。
サクセストラップが企業の直面する問題の根本原因だとすると、どうすればこのジレンマを解決できるのでしょうか。
それは、成熟市場や既存の戦略で競うために必要なことは、別の市場や新たな戦略で戦う場合に必要なこととはまるで違うという現実を理解するということから始まります。
探索(新たな戦略)と深化(既存の戦略)とでは必要とされることが違うとすれば、サクセストラップへの対応方法として、複数の調整をマネジメントする必要性を経営者が認識し、適切に実行に移していく必要があります。
これを言い換えると、“両利きの経営”をするということになります。
両利きの経営を具体例から学ぶ
両利きの経営が功を奏している企業の代表として、アマゾンがあります。
アマゾンの戦略を説明する際に、ジェフ・ベゾス(アマゾンの共同創設者)は、
「顧客志向を打ち出す企業は多いが、そのうちの大半がそうなってない」ことを指摘しています。
企業はスキルを重視するあまり、新しい分野に手を広げようと考える際に、
「なぜこれをやるべきなのか。自分たちにはその分野のスキルがない。」という発想に陥ってしまいます。
これでは、世の中が常に変化していき、かつては最先端スキルだったものも、すぐに顧客にとって不要なものになるという、変化に対応することができません。
これに比べて、「自社の顧客には何が必要か」から始まる戦略の方が、はるかに安定した経営となることについて、認識を改める必要があります。
そしてこの問いかけをした後、自社のスキルとのギャップを調べていくというアプローチが肝心になります。
短期の漸進型イノベーションを活用しながら、資源や経営陣の支援を“探索”に振り向けて、長期的な成功に向けた組織能力を重視することこそが、それに繋がります。
実際にアマゾンでは、オペレーションをより効率的により低コストにするといった細やかなイノベーションが日々生まれている一方で、Kindle、アマゾンウェブサービスとAmazon Primeのような大型イノベーションも起こしています。
アマゾンで“探索”と“深化”を同時に進めるアプローチが成立しているのは、このアプローチを実行するために組織を調整するリーダーの手腕による影響が大きいです。
新規事業が既存事業を脅かすとき、深化に伴う慣性の力が、新規プロジェクトを圧倒してしまう傾向が強くなります。
この慣性の力に打ち勝つためには、両利きの経営のリーダーが実行しなくてはならない重要事項が3つあります。
- 新しい探索事業が新規の競合に対して競争優位に立てるような、既存組織の資産や組織能力を突き止める
- 深化事業から生じる惰性が新しいスタートアップの勢いを削がないように、経営陣が支援し監督する
- 新しいベンチャーを正式に切り離して、成熟事業からの邪魔や支援なしに、成功に向けて必要な人材、構造、文化を調整できるようにする
両利きの経営の成功と失敗に関わるリーダーシップの原則は次の5つ
- 心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む
- どこに探索と深化の拡張関係を持たせるかを明確に選定する
- 幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る
- 一貫して矛盾するリーダーシップ行動を実践する
- 探索事業や進化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く